株価大暴落と金(ゴールド)

金(ゴールド)は安全資産?株価大暴落時に金(ゴールド)価格はどう動く?

はじめに

「有事の金(ゴールド)」という言葉は、株式市場が不安定な時や、世界情勢に不安が高まる際に頻繁に耳にします。金は古くから安全資産の代表格とされ、リスクオフの局面で投資家が資金を避難させる先として知られています。

しかし、本当に金はいつでも安全資産なのでしょうか?

実は、株価が大暴落するような極度の金融危機下では、金もまた大きく下落するという「アノマリー(経験則)」が存在します。直近では、2020年3月の「コロナショック」がその典型例でした。この時、株価が急落すると同時に金も大きく値を下げました。今回は、この現象の理由を解き明かし、現在の市場環境を踏まえた上で、投資家がどのように備えるべきかについて解説します。


1. そもそも金(ゴールド)が安全資産とされる理由

金が安全資産と呼ばれるには、いくつかの歴史的・本質的な理由があります。

  • 普遍的な価値: 金は世界中で価値が認められている実物資産です。国や企業が破綻しても価値がゼロになることはありません。
  • 信用リスクがない: 株式や債券と異なり、金は発行体の信用に依存しないため、金融システム全体が揺らいだ時に買われる傾向があります。
  • 供給量の希少性: 地上に存在する量が限られているため、無制限に増える通貨と異なり、価値が希釈されにくいという特性があります。

これらの理由から、多くの投資家はポートフォリオの一部に金を組み込み、有事の際のヘッジ(リスク回避)手段としています。


2. 株価大暴落時に金(ゴールド)が下落する理由

では、なぜ安全資産であるはずの金が、株式市場の大暴落と同時に下落することがあるのでしょうか。その背景には、市場に流動性が失われ、投資家が**「現金」を確保しようとする行動**があります。

理由①:換金売りと追証(追加証拠金)

株価が急速に下落すると、信用取引やFX、先物取引などで多額の損失を抱える投資家が急増します。これにより、追加の証拠金(追証)を差し入れる必要が生じたり、強制的なロスカットを防ぐために、手元に現金を用意する必要が出てきます。

この時、投資家は最も換金しやすい資産を売却します。その対象となりやすいのが、これまで長期で保有してきた利益の出ている金(ゴールド)です。特に、リーマンショックやコロナショックのようなパニック相場では、投資家は損益を問わず、あらゆる資産を投げ売りして現金化しようとします。この換金売りが、金の価格を一時的に押し下げる要因となるのです。

理由②:流動性のひっ迫

株価の暴落は、市場全体の流動性を著しく低下させます。本来、リスクオフで金が買われるはずの局面でも、市場全体が現金を渇望している状態では、新規の買い注文が入りにくくなります。これにより、売りが買いを圧倒し、金価格は本来の価値以上に下落することがあります。

この下落は一時的なもので、金融市場が落ち着きを取り戻し、各国の金融当局が流動性供給策を打ち出すと、再び安全資産としての金の価値が見直され、価格は反発する傾向にあります。2020年3月のコロナショック後、金価格が史上最高値を更新したことが、その典型例と言えるでしょう。

3. 現在の市場環境と金(ゴールド)投資

現在、世界の株式市場は歴史的にかなり高い水準で推移しています。さらに、以下のリスク要因が懸念されています。

  • 9月のアノマリー: 9月は過去のデータを見ると、株価が下落しやすい月として知られています。
  • 景気悪化のリスク: 世界的なインフレと金利上昇により、景気後退の懸念が強まっています。
  • スタグフレーションのリスク: 物価は高騰する一方で、景気は停滞するという最悪のシナリオ(スタグフレーション)もリスクとして浮上しています。

このような状況下で、もし再び大きな金融危機が起こった場合、金も一時的に下落する可能性は否定できません。しかし、長期的な視点で見れば、金はインフレや金融不安に対する有効なヘッジ手段であることに変わりはありません。

投資家が今、備えるべきこと

  • 一時的な下落リスクを理解する: 株価大暴落時に金も一時的に下落する可能性があることを認識し、パニック売りを避けることが重要です。
  • 長期的な視点を持つ: 金は短期的なトレードよりも、長期的なポートフォリオのリスク分散を目的として保有するべき資産です。
  • 少額からの積立: 一括投資ではなく、純金積立などを利用して、時間を分散して投資することで、価格変動リスクを平準化することができます。

まとめ

金は、金融システムの混乱やインフレに対する究極の安全資産であることに変わりはありません。しかし、株価の大暴落という極限状態では、「換金売り」という特殊な要因によって一時的に下落する可能性があることを理解しておくことが重要です。

金投資を検討する際には、「有事の金」という言葉を鵜呑みにせず、その価格変動メカニズムを深く理解し、長期的な視点と適切なリスク管理のもとで、ポートフォリオに賢く組み込むことが、あなたの資産を守る鍵となるでしょう。

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