はじめに:WASDEレポートとは?なぜコモディティ投資家にとって重要なのか
コモディティ投資に興味をお持ちの皆さん、こんにちは。日々変動する世界の市場で、私たちの生活に欠かせない穀物や農産物の動きは、投資家にとって非常に重要な情報源となります。特に、アメリカ農務省(USDA)が毎月発表する「世界農産物需給予測(World Agricultural Supply and Demand Estimates:略称WASDEレポート)」は、その中でも最も注目すべき情報のひとつです。
このレポートは、主要な農産物(小麦、トウモロコシ、大豆、米、綿花、砂糖など)の世界および米国の生産量、消費量、輸出入量、期末在庫量といった需給予測を詳細に示しています。これらのデータは、世界の穀物価格に大きな影響を与えるため、コモディティ投資を行う上では必ずチェックすべき「バイブル」のような存在と言えるでしょう。
本記事では、2025年7月11日に発表された最新のWASDEレポート(WASDE-662)の内容を基に、特に日本人コモディティ投資初心者の方々が知っておくべきポイントを分かりやすく解説します。このレポートから世界の穀物市場のトレンドを読み解き、今後の投資戦略にどう活かせるのかを見ていきましょう。
WASDEレポートの読み解き方:主要穀物の需給動向
WASDEレポートは膨大なデータを含んでいますが、初心者の方はまず主要な穀物(小麦、トウモロコシ、大豆、米)に焦点を当てて見ていくのが良いでしょう。ここでは、2025年7月25日リリースのレポート発表における、それぞれの品目について、今回のレポートで注目すべき点を解説します。
1. 小麦(WHEAT)の動向:供給増と輸出増の予測
今回のレポートでは、2025/26年度の米国の小麦見通しについて、供給量の増加、国内消費量の横ばい、輸出量の増加、期末在庫の減少が予測されています。
- 生産量: 米国の小麦生産量は、昨年より800万ブッシェル増の19億2900万ブッシェルと予測されています。これは主に収穫面積の減少を上回る単収(1エーカーあたりの収穫量)の増加によるものです。ただし、冬小麦の生産量は3600万ブッシェル減少し、硬質赤色冬小麦(Hard Red Winter)と軟質赤色冬小麦(Soft Red Winter)が減少しています。
- 輸出: 販売と出荷の好調な初期ペースに基づき、輸出量は2500万ブッシェル増の8億5000万ブッシェルと予測されています。
- 期末在庫: 期末在庫は800万ブッシェル減の8億9000万ブッシェルと予測されていますが、これは前年比で5%の増加です。
- 価格: 2025/26年度の平均農場価格は1ブッシェルあたり5.40ドルで、前回の最終価格である5.52ドルから据え置きとされています。
世界の小麦市場: 世界全体では、2025/26年度の小麦の見通しは、供給量の減少、消費量の増加、貿易量の減少、期末在庫の減少となっています。カナダ、ウクライナ、イランでの生産量減少が主な要因です。
- 供給: 供給量は0.4百万トン減の10億7210万トンと予測されています。
- 消費: 世界の消費量は0.8百万トン増の8億1060万トンと上方修正されています。
- 貿易: 世界の貿易量は1.3百万トン減の2億1310万トンと減少が見込まれています。
- 期末在庫: 世界の期末在庫は1.2百万トン減の2億6150万トンと予測されており、カナダとEUでの減少が主な要因です。
2. トウモロコシ(CORN)を含む粗粒穀物(COARSE GRAINS)の動向:米国は供給・需要・在庫全て減少
2025/26年度の米国のトウモロコシ見通しは、供給量、国内消費量、期末在庫がすべて減少するとされています。
- 期首在庫: 期首在庫は2500万ブッシェル減の13億ブッシェルと下方修正されました。
- 生産量: 2025/26年度の生産量は、作付面積の減少により1億1500万ブッシェル減と予測されています。
- 輸出: 輸出は現在の契約販売とこれまでの出荷実績に基づき、1億ブッシェル増の28億ブッシェルと上方修正されており、実現すれば過去最高となる見込みです。
- 期末在庫: 供給量が使用量を上回って減少するため、期末在庫は9000万ブッシェル減とされています。
- 価格: 生産者が受け取る平均農場価格は1ブッシェルあたり4.20ドルで据え置きです。
世界の粗粒穀物市場: 世界の粗粒穀物生産量は3.6百万トン減の15億4700万トンと予測されています。外国のトウモロコシ生産はカナダとメキシコでの作付面積増加を反映して上方修正されています。
- 世界のトウモロコシ在庫: 世界のトウモロコシ在庫は3.2百万トン減の2億7210万トンと予測されています。
3. 米(RICE)の動向:米国の供給減少と価格上昇
2025/26年度の米国の米の見通しは、供給量、国内消費量、輸出量、期末在庫がすべて減少するとされています。
- 生産量: 総米生産量は作付面積の減少により、790万カットルウェイト減の2億500万カットルウェイトと予測されています。これは4月から5月にかけての集中豪雨と洪水が作付けに影響を与えたためです。
- 価格: 供給量減少による価格上昇期待から、すべての米の平均農場価格は1カットルウェイトあたり0.50ドル上昇し、14.00ドルと予測されています。
世界の米市場: 世界の米見通しは、供給量はほぼ横ばい、消費量は増加、貿易量はわずかに増加、在庫は減少と予測されています。中国での消費量増加が主な要因です。
4. 大豆(SOYBEANS)を含む油糧種子(OILSEEDS)の動向:バイオ燃料需要がカギ
2025/26年度の米国の油糧種子生産量は、0.1百万トン減の1億2830万トンと予測されています。これは大豆、ひまわり、キャノーラの生産量減少が主な要因です。
- 大豆生産量: 米国の大豆生産量は500万ブッシェル減の43億ブッシェルと予測されています。
- 大豆粉砕量(Crush): バイオ燃料向けの需要増に支えられ、大豆の粉砕量は5000万ブッシェル増の25億4000万ブッシェルに引き上げられました。これは、米国環境保護庁(EPA)の再生可能燃料基準(RFS)の義務付け規則案や、45Zクリーン燃料生産税額控除などの政策インセンティブが影響しています。
- 大豆輸出: 米国の国内需要増加、アルゼンチンとウクライナからの輸出増加、ブラジルの供給量増加により、米国の輸出は7000万ブッシェル減の17億5000万ブッシェルと下方修正されました。
- 期末在庫: 期末在庫は1500万ブッシェル増の3億1000万ブッシェルと増加しています。
- 価格: 米国の平均農場大豆価格は1ブッシェルあたり10.10ドルと、前月より15セント下落しました。大豆油価格は7セント上昇し53セント/ポンド、大豆ミール価格は20ドル下落し290ドル/ショートトンと予測されています。
世界の油糧種子市場: 世界全体では、供給の増加、粉砕量の増加、輸出の減少、期末在庫の増加が見込まれています。
5. 砂糖(SUGAR)の動向:供給増加と使用量減少
2025/26年度の米国の砂糖供給量は1380万8000ショートトン(生糖換算)と予測されており、前月比で3万4445ショートトンの増加です。
- 期首在庫: 期首在庫が増加したことが主な要因です。
- 使用量: 使用量は16万5000ショートトン減の1196万ショートトンと予測されています。これは、会計年度最初の8ヶ月間の出荷ペースが期待外れに弱かったことに基づいています。
- 期末在庫: 期末在庫は19万9445ショートトン増の164万3000ショートトンと増加しています。
6. 畜肉、家禽、乳製品(LIVESTOCK, POULTRY, AND DAIRY)の動向
2025年の米国の赤肉と家禽の総生産量は前月より減少すると予測されており、牛肉と七面鳥の生産量減少が豚肉とブロイラーの生産量増加を上回る形です。
- 豚肉: 豚肉生産量は増加が見込まれています。
- 牛肉: 牛肉生産量は、屠殺ペースの鈍化と枝肉重量の減少により下方修正されました。2026年には牛肉生産量の予測は上方修正されています。
- 価格: 豚肉と七面鳥の価格予測は上方修正されており、牛肉価格は若干下方修正されています。乳製品では、牛乳生産量は牛の頭数増加と1頭あたりの乳量増加により上方修正されています。
7. 綿花(COTTON)の動向:生産量増加と在庫増加
2025/26年度の米国の綿花需給は、生産量と期末在庫が増加し、期首在庫が減少し、消費量と輸入は横ばいです。
- 作付面積: 作付面積は1012万エーカーに上方修正されました。
- 生産量: 生産予測は60万ベール増の1460万ベールと上方修正されています。
- 期末在庫: 期末在庫は30万ベール増の460万ベールと予測されています。
- 価格: 平均農場価格は1ポンドあたり62セントで据え置きです。
コモディティ投資初心者へのアドバイス:WASDEレポートをどう活かすか
このWASDEレポートから得られる情報は、コモディティ投資家にとって非常に貴重です。初心者の方でも、以下の点を意識してレポートを活用してみましょう。
- 需給バランスの確認: 生産量、消費量、輸出入、在庫量の増減は、将来の価格動向を予測する上で最も重要な要素です。供給が不足し、需要が旺盛な品目は価格上昇の期待が高まります。
- 前月との比較: レポートでは、常に前月の予測値との比較が行われています。この変化に注目することで、市場のトレンドやサプライズをいち早く察知できます。特に、大幅な修正があった場合は、価格に大きな影響を与える可能性があります。
- 主要な変化の理由を理解する: なぜ生産量や在庫量が変化したのか(例えば、作付面積の増減、天候不順、政策変更、バイオ燃料需要など)を把握することで、より深い洞察が得られます。
- 関連ニュースとの組み合わせ: WASDEレポートは重要な情報源ですが、これだけで全てが決まるわけではありません。地政学的リスク、異常気象、為替の変動など、リアルタイムで発生するニュースと組み合わせて分析することで、より精度の高い投資判断が可能になります。
まとめ:世界の食料・資源を理解し、賢く投資をしよう
WASDEレポートは、世界の食料・資源の需給状況を把握するための強力なツールです。初心者の方にとっては、最初は難しく感じるかもしれませんが、主要な穀物から少しずつ読み解く練習を重ねることで、コモディティ市場のダイナミズムを理解し、賢い投資判断を下すための強力な武器となるでしょう。
今回のレポートでは、米国における小麦や大豆の需給の引き締まり(特にバイオ燃料需要が大豆を押し上げている点)や、米の価格上昇などが注目されました。これらの情報は、それぞれのコモディティに関連するETFや個別銘柄、先物取引などを検討する上での重要なヒントとなります。
コモディティ投資は、株式や債券とは異なる値動きをするため、ポートフォリオの分散にも役立ちます。ぜひこのWASDEレポートを定期的にチェックし、世界の食料・資源市場の「今」を掴み、あなたの投資戦略に活かしてください。

